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『三酔人経綸問答』

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中江兆民の『三酔人経綸問答 』。以前知り合いにお勧めされたのを思い出して、本屋で衝動買いしてしまいました。
若干ネタバレにはなってしまいますが、この本の内容を紹介したいと思います。

まず本書の構成です。これが中々面白くて、2人の若者と1人の先生、政治を語ることの大好きなこの三人が、酒を飲みながら日本のあり方について議論する構成となっています。原文は元々文語体で書かれているのですが、僕の読んだ岩波文庫版ではより多くの人に読んでもらいたいとのことで、現代語訳もついています。とても読みやすくなっているので、以下の紹介を見て読みたくなったら是非手にとって見てください!

登場人物1:紳士君

西洋の衣服を身にまとい、東洋のことは学びはするが、西洋のモノや思想を敬愛する者。主張の根幹は、日本は完全な制度としての民主制を取り、軍隊を撤廃し深い道徳を持つ国にする、という点にあります。つまり、民主制のもとでは、専制下のように人々が支配者の支配を受けず、自由と平等を有しているため、学問・芸術・文芸などが何の弊害もなく盛んに行われ、発展していく。学問・芸術・文芸等が発展すれば国民はみな紳士となり、道徳的な人格形成がなされる。そして列強からの侵略については、無理に望みのない富国強兵をするのではなく、道徳的な国民性を前提として軍備を撤廃し、道義に立脚して諸列強も敬愛し、尊敬し、侵略するに忍びない国とする。ということです。

非常に観念的で、そもそも達成できるかは怪しいですが、個人的にこういった理論は好きですね。後、民主制下では戦争はそもそも起きないという主張も別にしていて、それに当たって以前読んだ、カントの『永遠平和のために 』を参照していたのが少し嬉しかったです。この本もカントの中では読みやすいらしいので(僕にとっては難しかったですが・・)是非読んでみてください!

登場人物2:豪傑君

背が高く腕が太く、カスリの羽織、きりりとして袴をはいた者。紳士君とは逆に軍備を整え、他国に侵略するべきだと主張します。ただ彼にしてみれば、日本という枠の中で軍備を整えるのではなく、弱い大国を侵略しその土地の人口や土壌を利用して富国強兵をしなければならないみたいです。それというのも、イギリス、フランス、ドイツ等は元々の土地以外に植民地を持っていて、それが国力の基盤となっているという点に立脚しています。さらに、現在日本には「古い物好き」と「新しい物好き」という二つの種類の人がいて、その対立を避ける為に、戦うことの好きな「古い物好き」を侵略に向かわせ、「新しい物好き」は元来の日本の土地で、紳士君の言うような制度を打ち立てていれば良い、と発展させます。

豪傑君は、その名の通り非常に戦いを好んでおり、紳士君のように列強に対して無防備に道徳的な態度を取るのはばかげていると批判します。しかし「新しい物好き」に触れていることから、紳士君のような人の存在自体を弾圧はしていない一面も見ることが出来ます。

登場人物3:南海先生

一度酔えば即ち政治を論じ哲学を論じて止まらぬところを知らない先生。そもそも上記の二人は南海先生の家に訪ねてきています。それゆえ彼の主張は紳士君と豪傑君の主張の至らない点を中心に述べられています。

曰く、紳士君の説は「ヨーロッパの学者がその頭の中で発酵させ、言葉や文字では発表したが、まだ世の中に実現されていないところの、目もまばゆい思想上の端雲のようなもの」、豪傑君の説は「昔の優れた偉人が、百年、千年に一度、実際事業におこなって巧妙を勝ち得たことはあるが、今日ではもはや実行し得ない政治的手段です」、というようにいずれも現在の役に立つものではないとします。

更に、紳士君と豪傑君は「列強がいつか攻めてくる」という誤った認識を持っていると批判します。つまりイギリス、フランス、ロシア、ドイツなどの強国は現在勢力が拮抗していて、そうそう好きな様には動けないゆえに国際法を守る必要がある。アジアを侵略するにしても様々なメリット・デメリットを議会等で討論しなければならない。そうして時間がかかっている内に、それらの国は自ら崩壊する。したがって列強が日本に攻めてくることはない、ということです。

最後に南海先生は、実現できない理想よりもその国の人民のレベルに沿った制度を実行することを提言します。いきなり高度な民主制を敷いて大衆の混乱を導くよりは、立憲制を取って天皇の栄光と国民の幸せを追求し、ゆるやかに自由化し、細かい規則は欧米を参考にして採用すべきものを採用する。こういったことで彼はまとめます。

『三酔人経綸問答』の現代的意味

さて、登場人物三人の主張をまとめてみましたが、この議論を現代考えることにどんな意味があるのでしょうか。当時の情勢は現在とは異なり、国民の思想も違うため、実際この本で重要なことは二つにしぼれると僕は考えます。

一つ目は当時の日本・世界の情勢を研究する上で非常に有用なものになる点。二つ目は現代の人々がこの本を読むことで、現代における日本のあり方を各人が考えるきっかけとなる点。

現在の日本の在り方について、政治・経済・文化などの面で考えなければならないことはあまりにも多いです。ただいきなり考えることは中々出来ないものです。だからこそ本書のような古典から学ぶ必要があります。最近、日本にも民主主義が根付いてきました。南海先生風に言うと、やっと日本人が民主主義を実行しうるレベルに達したのです。

当時との状況の違いこそあれ、本書から日本のあり方を論じる「姿勢」を学ぶという意味で、とても大きな意味があるのではないでしょうか?

 

 

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